Short stories
短編創作
空(続き)
山肌にのっている道路は片手に木々を、もう片手にガードレール越しの崖と抜けるような空。 周りの風景が前から手繰り寄せるように自分を通り抜けて一気に後ろへと投げ捨てられるように消えていく。 後ろでは彼女がヘルメットのシールドを少しあげて、空と木々を交互に見回していた。
「バイクって初めて乗りましたけど、本当に自由なんですね。」
風越しだが、はっきりと聞き取れる声。
「自由な鉄のお馬さん。」
彼女は後に一言そう付け加えて少し笑った
「鉄馬か…。」
対向車線をさっきのパーキングへと向かうバイクの集団がこっちにブイサインやらで挨拶をしてくるのに同じように会釈を返しながら走り続ける。 後ろの彼女も見よう見まねで同じようにしながら何か俺に話しかけてきた。
「あの、もし、また、ここでお会いできたら、今日みたいに後ろに乗せて貰えませんか?」
彼女はそう俺に問いかけていたのだが、実際は、自分の愛車と対向車線を走るバイク達の騒音に紛れて良く聞こえなかった。
ただ、俺は何となく問いかけられているのは判ったので、良く判らないままに頷いてみせただけ。
そういえば、俺も長い事バイクに乗っているけど、こんなに優しい気分で走れたのは初めての事だったかもしれない。