Short stories
短編創作
空(続き)
「あのお父様に見つかったら大変だな、これは。」
と一人つぶやきながら、バイクを跨ぎ、彼女をリアシートへ迎える。
慣れない雰囲気で落ち着きの無い彼女に一声かける俺。
「俺は翼の代わりになるだけだから、どこへ行きたいか言ってくれ。」
「…すぐ向かいの山の、あそこに見える…休憩所かしら?お父様の居ない風景のある所が良いです。」
「仰せのままに(笑)。」
時間にして、往復30分とちょっとってところか。
彼女にとってはちょうど良い距離なのかも知れない。何故だか今の俺には、そう思えた。
サイドスタンドを跳ね上げ、クラッチを握り、ギアペダルを踏み込む。
後ろを向く。ヘルメットのシールド越しに彼女の目を見てから前を向きなおして一拍、深呼吸をする俺。
心地よい愛車のエンジンの音から準備完了の合図を聞き取って、ゆっくりとスロットルを捻ってクラッチを繋いでいった。
駐車場の出口前、偶然にも通りかかる車は無い。 出口で待たされれば、見つかってしまうかもしれなかったが、それも大丈夫のようだ。
ツイてるな、彼女は。いや、俺がか?
道路にでた俺は、彼女がしっかり掴まっているかを再確認して、少し大胆に加速をかけていく。