Short stories
短編創作
空(続き)
そう言って俺は一旦、バイクへ戻り、リアシートの工具入れからタイラップを、 とタンクバッグからメモ帳とボールペンを持って彼女の元へと切り返した。
そして、彼女の元に戻った俺はメモ帳の1ページを千切って彼女へ渡す。
「?」
「それじゃ、そこに下の名前だけで良いから書いて。」
俺は先に自分の名前を書いて見せて、ボールペンを彼女へ渡した。
彼女も言われるがままに名前を書き込む。
そして、首を傾げながらも名前を書いた紙を手渡してくれた。
「OK…そしたら、俺達は、しばらくの間、変わり身を立ててここから抜け出すのさ(苦笑)。」
そう言って俺は2人の飲んだコーヒーとミルクティーの空き缶に名前を書いた紙をタイラップで留めて柵に並べて置いた。
彼女が初めて少し笑ったような。
そして、黒塗りの車のある駐車場からは死角になっている自分のバイクの方へ彼女を連れて丘を下りて、愛車のエンジンに火を入れる。 ヘルメットを手渡した彼女が首を傾げていたので、俺が彼女に頭からスッポリとヘルメットを被せて顎紐を絞る。 その時俺は、彼女に被せたヘルメットがちょっと汗臭かったかもしれないと思ったが、敢えて聞かなかった。