Y's Note

Short stories

短編創作

空(続き)

「今日はどこかへお出かけの途中かい?」

「ええ、親族のお食事会に向かう途中なんです。」

「げ、…あ、そう…それで、あのお父様は何時からああやって電話を?」

「もう1時間近く仕事のトラブルでああやって…。」

そして、視線を目の前の光景に戻していく彼女。俺もその視線を追う。

「一人で外出した事、無いんです。私。」

「ふぅん…それで、鳥見て、自分も翼(自由)が欲しい、と思ったんだ?」

「はい…。」

俺は、視線を駐車場の黒塗りの車へ泳がせて、あのお父様がまだ電話に夢中なのを見て、自分のバイクを停めてある背後の駐輪場へとそのまま視線を移していく。 俺の心の中で、やめておけ、と誰かの制止する声が聞こえてきたような気がしたが、何故か、直ぐに遠のいていった。

「なぁ?」と俺。

「はい?」と彼女。

「少しの間だけ、俺が翼代わりになってやろうか?」

「え?…。」

「変に察したりしないで、単純に俺の質問に「はい」か「いいえ」で答えて…少しの間だけでも翼が欲しいかい?」

「えぇ…はい。」

「ん。ちょっとここで待ってて。」