Short stories
短編創作
煙草を噛んで味わう男
短編。言われてみると…どうでしょうか?
ここは自室。
革張りのソファーに深く腰をおろし、手にした煙草に火をつけた。
自身に深く香りを吸い込んで遠くを眺めながらしばらくの間、時間を止める。 ゆっくりと吐き出しながら、ふとある男との会話を思い出していた。
街の喫茶店でコーヒーで一服の休憩をしていた時にその男が目に付いたのだが、 その男は煙草をふかす時にまるで食べ物を咀嚼するかのように何度も噛んでいた。
別に噛み煙草のように煙草自体を噛んで味わっているのではない。 他に何か食事をしている訳でも無い。
テーブルにはコーヒーのみ。やはり煙草の煙を噛んでいるのだ。
ゆっくりと味わうように。
それは普通に見てとても奇妙な事なのだが、聞かずとも無意識に噛んで味わっている、と理解する事ができた。
本当は噛んで味わっていると言う事を見ただけで理解したような気がした自分自身もちょっと変わっているのかも知れないという事実を認めたくないような気がして、その男に何となく声をかけてしまった。